精神薬は安易に飲むな



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 抗うつ薬の一つ「SSRI」を使ったうつ病治療で、不安感や自殺衝動、攻撃性などの副作用が出ることがある。この副作用症状を双極性障害(躁(そう)うつ病)と診断され、薬を追加される例が増えており、多剤併用によって症状が悪化する患者も少なくないという。

 ●薬増えて6種類に

 兵庫県の40代女性は約10年前、クリニックでうつ病と診断されてSSRIと睡眠薬を処方された。

 約1カ月後から怒りやすくなり、夫との口げんかをきっかけに睡眠薬をまとめてのみ、意識がもうろうとなる出来事があった。その後も不安定な状態が続き、走行中の車や自宅マンションから飛び降りるなど一歩間違えば命を失う行動をとったが、恐怖を感じなかったという。離婚し、元夫から「別人のように変わり果てた、あなたが怖かった」とメールが届いた。

 その後、双極性障害と診断され、処方薬は双極性障害に効果があるとされる抗精神病薬や抗不安薬など6種類に増えた。

 女性は夜も寝ずにパソコンを見るなど「過活動」の状態になり、ささいなことに怒ったり、家具を投げて壊したりした。女性は他の医師に相談して薬を減らし、約2年かけて薬をやめると、過剰な服薬や暴力的な行動はなくなり、死にたい気持ちもなくなった。最初にうつ病と診断されてから約7年がたっていた。女性は「自分のお金と国の医療費を薬に使い、結局、家庭も健康も失った」と憤る。

 女性のカルテを見た国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦薬物依存研究部長は「自分に起こる危険を人ごとのように感じる症状は、SSRIによる副作用として生じうるものだ。問題行動の後、抗精神病薬を上乗せされているが、SSRIをやめるべきだったのではないか」と指摘する。

 ●7割以上に変調

 SSRIは1970年代から欧米で開発され、日本では99年に発売された。SSRIは副作用が比較的少なく、効果も高いとして広まった。しかし、その後、攻撃性や自殺衝動が高まるなどの副作用が報告されるようになった。抗うつ薬に詳しい田島治・杏林大名誉教授は、SSRIを初めて服用するうつ病患者55人(18〜70歳)を対象に、飲み始めから3カ月間の変化を調査した。その結果、3割の17人が不安感、不眠、自傷、よく動き回るといった「賦活(ふかつ)症状」と診断された。賦活症状の疑いを含めると7割以上の41人に何らかの副作用があったという。

 田島名誉教授はSSRIについて「不安がなくなる、くよくよしなくなるなど、患者によっては非常に効果が高い」とした上で「医師が賦活症状を副作用と理解せず、別の薬を増やしてしまう例が多い」と話す。

 厚生労働省の調査によると、全国の双極性障害の患者数は96年に5万2000人だったが増加を続け、2011年には12万人に達している。田島名誉教授は「双極性障害は遺伝的な素因があると考えられ、急増は考えにくい。SSRIの副作用を双極性障害と診断する例が増えていることも要因の一つではないか」と指摘する。

 ●「安易に飲むな」

 SSRIの副作用が多剤併用につながる危険性について、独協医科大越谷病院こころの診療科の井原裕教授は「うつ病から双極性障害に診断変更される人が08〜09年ごろから増えた。落ち込んでいる気分をSSRIで持ち上げ、その軽い躁状態を抗精神病薬で治そうとする。薬の作用で気分の上下動を増幅させている」と分析する。井原教授は、睡眠リズムや生活習慣の改善指導によって徐々に薬を減らし、最終的に薬をゼロにする治療を提唱する。

 日本うつ病学会は、12年7月に発表した治療ガイドラインで、軽症のうつ病について「薬物の有用性そのものは否定できないが、少なくとも安易な薬物治療は避けるという姿勢が優先されるべきであろう」と注意を促した。多剤併用についても「原則としては単剤で十分な用量を十分な期間使用すべきである」としている。【和田明美】

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